【山行報告】ヨセミテ遠征

T橋です。
ヨセミテ遠征の報告です。

1.エリア:ヨセミテ国立公園(アメリカ、カリフォルニア州)

2.日程:平成29年8月11日~20日

3.メンバー:T橋L、S田、A瀬

4.目的:クライミング

5.概要
今回は全体日程が10日間で実質的にクライミングに費やせる日程は6日間というものであった。そんな中、ヨセミテ国立公園の2つの地域を訪れることとし、最初の3日間は標高が2600m近くあるトゥオルミメドーをベースとした。トゥオルミは涼しいを通りこし、朝夜は寒過ぎるほか、高度差、時差など環境に慣れるためにもう少し時間が必要だと思った。また、シャワーなどの施設もなくヨセミテバレーに比べ、ワイルドな生活を余儀なくされた。中日1日は移動日を兼ねてレスト日とし、トゥオルミからヨセミテバレーにベースを移動した。トゥオルミに比べバレーは人が多すぎる難はあるものの食べ物の確保やシャワーにも困ることはなかった。また、バレーの標高は1200m程度でトゥオルミの半分くらいであり、朝夕に寒すぎることもなく快適なキャンプ生活を過ごすことができた。短い日程で2つのエリアを訪れたのはせわしない感じがし、また、無駄な移動日が生ずるため少々欲張りすぎた感があり、2つのエリアを訪れるのであればより長い日程の確保が必要だったと思われる。
今回の遠征に向け、クラックの練習に時間が取られ、3人でのマルチの練習は結局一度きりであった。シングルピッチでは5.9台までなら皆登れる位になったものの、ヨセミテマルチのワンピッチは長めで、それを加味すると5.7から5.8あたりが今回のメンバーの限界であった。ただし、グレードが低くとも、さすがはヨセミテであり、星印の多いルートは景色の良さや、巧みに設定されたルートどり、残置が全くないクリーンな環境は登り終えた後に満足感があるものであった。
ナチプロでのクライミングは、もちろんプロテクションとしての設置技術も磨く必要があるが、ヨセミテでは残置視点がほとんどないので終了点としての設置技術およびある程度の玉数を残してのクライミングに注意する必要があった。

6.行動記録
8/11:小松空港~仁川空港~サンフランシスコ空港~マンテカ泊
小松空港から仁川空港経由でサンフランシスコ空港に向かう。サンフランシスコ空港でレンタカーを借り、いよいよヨセミテに向けて出発。慣れない左ハンドル左車線。「運転手の左側にセンターライン」と唱えつつハイウェイをひた走る。ヨセミテまでの道中にあるダブリンの町でREIに立ち寄りガスカートリッジを購入し、マンテカという町のモーテルに泊まりこの先の食糧や水などを買い出し。でかいスーパーでの買い物でかなり歩かされ、この日は移動の疲れもあってか時差ボケにもかかわらずぐっすり眠る。

8/12:マンテカ~トゥオルミメドーキャンプ場泊
Duff Dome Southfranke guide crack 5.5~5.8
朝5時起床で、モーテルを5時半にでてトゥオルミメドーに向かう。キャンプ場に着くまでになんやかんやで5時間くらいかかる。テント設営後、足慣らしでDuffDome southfrankeに登りに行く。ここは翌々日に登るつもりだったFairviewDome regular route5.9(12P)の真正面にありその偵察も兼ねていた。regular routeはトゥオルミ随一のルートであり今回の遠征の目玉になるラインである。対岸から眺めた印象はその大きさであり、昔々に冬山に入っていた頃のような緊張感が胃を締め付けるようだった。岩場へのアプローチは15分程だが、時差ボケか高度のせいか体が重い。なんとなく調子が上がらないまま簡単めのシングルピッチのルートをそれぞれ3本ずつ登り岩の感触を確かめた。
8/13
Cathedral Peak Southeast buttles 5.6(5P)
時差ボケの影響かはたまた昨日から続くregular routeに対するプレッシャーか、ほとんど眠ることができなかったが、S田さんの猛烈なプッシュにより計画実行となる。朝5時起床でトゥオルミでFairviewDome regular routeに次ぎ人気のあるCathedral PeakのSoutheast buttles 5.6(5P)に向かう。このルートはアプローチに2時間程度かかり、終了点はCathedral Peak(3326m)の頂上という、いわばアルパイン的なルートでもある。アプローチは世界で最も有名なJhon Muir Trailとなっており、トレッカー気分で歩みをすすめるつもりが出だしでA瀬の忘れもので出鼻をくじかれる。それでも、一日経つと寝不足ではあるものの環境に慣れた感じがし、トレッキングルートとしても楽しいアプローチを順調にこなす。Cathedral Peakは、岩の色が白く、澄み切った空気の中で一際輝いていた。ヨセミテの花崗岩はつるりとしたイメージを持っていたが、ここはかなりごつごつとした感じであり、傾斜もなく登りはさほど難しくなさそうである。かなりの人気ルートであるらしく既に4パーティーほど取りついており、準備している最中にも続々と後続が登ってくる。結局、1時間30分程度待ったうえで、バリエーションルートから登ることとし、1、2ピッチはS田さん、3、4ピッチはT橋、5ピッチはA瀬の順で登り始める。最初の見た目どおり、全体にフレーク状のホールドがありジャミング技術は必要なし。また、結晶が大きくボコッと突き出ておりその滑りそうな結晶を拾いながらのクライミングは傾斜のないフェースクライミング。そうなれば高度感に強いS田さんはぐいぐいと高度を稼ぐ。ただし、登り始めるにあたり、カムの玉数が多いと重く登りにくいという理由で取り付きにいくつか置いていくことにしたが、各ピッチに終了点がないためにカムを使って自ら設置していく必要があり、その分、登りの際のカムは常に不足し、ランナウトを強いられることになってしまった。先行Pが遅いこともあり、待ちながらの登りとなってしまうが、それに加え持参したロープのキンクがひどくそれらをほどくのに時間と手間がかかる。また、3人での登りの予行練習は日本でも1度きりであったため、今ひとつ連携が悪い。登り始めから3時間ほどで頂上に到着し、ピークの反対側をクライムダウンと懸垂下降を交えて下降する。下降の際、終了点からクライミングシューズとチョークバックしか身に着けていないワンピース姿の女の子(A瀬的にはかなり好みだったらしい)が突如現れ、度胆を抜かれる。どうやらフリーソロで登ってきたらしく、はにかんだ笑顔を残し、裸足で山を駆け下りていった。取り付きに戻ってみると、フリーソロを楽しむ方々が3名ほどおり、「あー、これがヨセミテか」と妙に納得してしまう。

8/14
Lumbert Dome Northwest books 5.7(2P)
前日の登りに様子を鑑みると3人で12ピッチをこなすにはどれだけ時間がかかるのか。またトゥオルミで一番の人気ルートであればどれだけ順番待ちがあるのだろうかなどの理由により、Fairviewのregular routeは前日の夜に断念することを決定し、代わりにPywiak DomeのZee Tree5.7(6P)に向かうことになっていた。トポによると、Zee Treeは「This is one of the few well-bolted face routes in Tuolumne and a great introduction to face climbing well」と紹介されており楽勝ムードで取りつきに向かってみれば、どこにボルトがあるのか全く見えず、先行パーティーの登りを見てみると1ピッチ目は40m近くランナウトするようであった。ヨセミテでは落ちないところにはボルトは打たれておらず、落ちるかもと思うならば取りつくなといった雰囲気を感じた。結局、Zee Treeはあきらめることにして、Duff DomeのWest Crackに取りつくため、キャンプ場にカムを取りに戻ることにした。ところが取りに行く途中、道が渋滞しはじめており、渋滞を回避でき、登り下りともに時間的に余裕のもてるLumbert DomeのNorthwest books 5.7(2P)に再度変更する。Northwest booksの1ピッチ目はA瀬が担当するが、キャンプ場から近く、ピッチ数も短いためよく登られているためか核心部のレイバックの足がつるつる滑り、何度か行ったり来たりしつつも無事にリードを終える。2ピッチ目はT橋が行くが、途端に簡単になりあっという間に終了点についてしまう。登り的になんともないルートとなめていたが、下降は高度感満点のスラブを歩き、宝探しのように広大な花崗岩のスラブにピンポイントで懸垂下降の支点を探さねばならなかった。高度感に強いS田さんはサクサクとクライムダウンするが、男性陣2人は尻の穴をむずむずさせ、時折四つん這いになるなど醜態をさらす。ちなみに、Lumbert Domeの下には観光客用の駐車場が整備されており、我ら男性陣の醜態は一時注目の的になっていた。あー、恥ずかしい・・・。

8/15:トゥオルミメドーキャンプ場~ヨセミテバレー~ロワーパインキャンプ場泊
移動日。道中、トゥオルミグローブにてジャイアントメタセコイアの森などを見学する。
8/16
Manure Pile Buttress Nutcracker 5.8(5P)
Nutcrackerはヨセミテバレーで初心者に人気の五星ルートである。また、今回の遠征でバレーでの目玉にしていたルートであり、気持ちよく登り切りたいと思っていた。前日の下見の時には、夕方にもかかわらず蜘蛛の糸のようにロープがつながっており、なんとしても最初に取り付く必要を感じる。当日、予定どおりに取り付きに1番のりできたものの、大量の蚊が襲いかかるため、人もいないのに慌てて準備を始め、Nutcrackerに取り付く。今回は1、2、3ピッチはT橋、4ピッチはS田、5ピッチはA瀬と、個人的に多くリードをさせてもらうことにした。出だしの1ピッチ目は朝一からのレイバックが続き上部は被ってくるなど意外といやらしく2度ほどテンションを入れてしまう。2ピッチ目は全く問題なく、3ピッチ目はハンドジャムが気持ちよく決まる快適なピッチだった。しかし、ピッチを切る場所を間違えてしまい時間をロスする。さらに、ロープのキンクがひどく、絡まりをほどくために多くの時間を要してしまう。幸運にも我々以外に登りにくるパーティーがなく、下から追い上げられるプレッシャーは感じずに済んだ。4ピッチ目はハングからスラブ、フィンガーといった多彩な内容のピッチであり、S田さんが果敢にリード。ハングの乗越にカムを使いすぎ玉不足になりながらもランナウトで切り抜ける。S田さんの度胸はなかなかだと思う。5ピッチ目はちょっと被ったセクションのマントルが核心であるが、このピッチはA瀬が担当。後続もいないことからじっくりと時間をかけ、マントルの手前のちょうどよいところにボールナッツを決められる隙間を見つけ無事に核心を突破。そのあとは快適なクラックをつなぎ終了点へ。終了点でロープを外し、トレールをたどって20分ほどで取りつきに戻る。
 Nutcrackerを終え、一旦キャンプ場に戻るも時間は12時を回ったくらいであり、もったいない根性が働き、クライマーの聖地キャンプ4の近くにあるSwanslabに登りに行く。Swanslabは雑穀谷ような雰囲気のところでショートルートが何本かある。5.7くらいの短めのクラックを各自1本ずつ登り、その後、無名の5.9のフィンガークラックにA瀬が取り付く。1時間近くかけてトップアウト。途中、支点がとりずらく足がプルプルする場面もあったが無事に登れて本人は気分爽快か。結局この1本の後、雨が降ってきたためにキャンプ場へ戻ることにした。

8/17
ChurchBowl Bishop’s terrace5.8
 この日でヨセミテでのクライミングも最終日。なんだかあっと言う間であるが、餞別をいただいた方々へのお土産探しなどもあるため、この日はChurchBowlのBishop terraceの1本に狙いを定める。朝早めに行くも、先行Pがすでに取りついており1時間ほど待ってからまずはT橋が取り付く。Bishop terraceは60mロープであれば1ピッチで登ることができ、トポ通りのカムを持って取り付く。60mを1ピッチで登るには、手持ちのカムを節約しながら登る必要があるが、途中で我慢ができず、カムを荷揚げしてもらう(情けなし・・・)。このルートには、ハンドジャムからワイド、レイバックなど様々な要素が60mの中に詰め込まれており、最後はなかなか高度感を味わいつつバチ効きのハンドクラックで気持ち良く終了点に辿りつけることができた。途中先行Pの懸垂待ちがあったものの、今回の遠征で最も楽しく登れたルートであったと思う。その後、S田とA瀬も同ルートを2ピッチに分けて登りきり、やはり満足げな顔で降りてきて今回の遠征におけるクライミングを終えたのであった。その後、バレー内の観光をし、明日からの帰国に備えシャワーを浴び、お土産を探し、夕食にハーフドームビレッジのレストランで、スペシャルなピザと生ビールを堪能し、ささやかながら遠征の終わりを祝ったのでした。

8/18:ヨセミテバレー~サンフランシスコ空港
移動日。レンタカーの返却が13時までという事で、朝一に荷物を片付けて空港に向かう。あえてゴールデンゲートブリッジを通るルートを選択するも、予想以上に混雑しており、時間ぎりぎり、ガソリンぎりぎりでレンタカー返却。そのあと、時間があったためサンフランシスコ観光としてひたすら市内を歩き回る。
8/19:サンフランシスコ空港~仁川空港
移動日。サンフランシスコでの出発が2時間ほど遅れ、機内で待ちぼうけ。
8/20:仁川空港~小松空港
移動日。やっとで小松に到着、最後の最後に空港でトラブル未遂があったものの、無事に家にたどり着く。
7.最後に
今回の遠征は、2年前東京にいる時に立案し、金沢に戻ってから1年半をかけて準備を進めてきました。しかし、最終的には自身の調整に失敗するなど個人的に満足のいく遠征ではありませんでした。そんな中、イライラし、わがままになった僕に最後までつきあってくれた2人に感謝したいと思います。